2024年の最低賃金は5パーセント代の上昇でした。そして2025年は6パーセントで調整されています。経営者の中には、驚愕の上げ幅だと感じている方もいるでしょう。
以前から、飲食店の経営においては、人件費は最も大きなコストのひとつでした。ですが、今後はますますその傾向が強くなります。特にアルバイトの採用・定着・シフト管理は、日々のオペレーションに直結するだけでなく、利益率にも大きな影響を与えます。
物価高、最低賃金の上昇、人手不足 ── 飲食店を取り巻く環境が厳しさを増す中で、「人件費にどう向き合うか」は、単なるコスト削減の話ではなく、戦略的な経営判断の要になります。
人件費=「時給×労働時間」だけではない
人件費というと、「時給×シフト時間」と考えがちですが、実際には以下のようなさまざまなコストが含まれます。
- 給与(時給)
- 交通費・深夜手当・残業代
- 社会保険料・労災保険
- 研修費用や制服・備品
- 採用・教育・定着にかかる間接費用
これらを見ると、人を雇うことの大変さが分かります。
そこで発想を変えることが重要となります。人件費のコントロール=「人数や時給を減らすこと」ではなく、「いかに戦力として活かすか」がカギなのです!
地域No.1の時給を「楽をするために」払うという発想
千串屋では、あえて「同業他社に対して地域No.1の賃金」を目指しています。理由は単純です。その方が運営が楽になるからです。
結局のところ、「働く=お金のため」というのがアルバイトの基本的な動機。であれば、他より魅力的な待遇を提示して優秀な人材を集める方が、管理の手間が圧倒的に少なくて済むのです。
「うちは地域No.1の給与だからこそ、このお店で働く価値がある」とその優位性をスタッフ自身が自覚すれば、みの半分以上は解決済みだと考えています。
「人件費が高くても儲かる仕組み」が必要
当然、「高時給=儲からなくなるのでは?」と疑問に思われる方もいるでしょう。しかし、ここで重要なのが「FLR管理」です。
FLRとは、以下の3つのコストを指します。
- F:Food(食材原価)
- L:Labor(人件費)
- R:Rent(家賃)
この3つを日々見える化し、店舗ごとに数字意識を刷り込むことで、「高時給でも利益が出る体制」が作れます。
この管理について、多くの経営本では、「FLR管理は毎月の会計データを基に管理しなさい」と書かれています。しかし、現場ではそうはいきません。営業が終わった後、疲れてパソコンを開くのは週に1回か2回が精一杯でしょう。
ただし、1〜2週間遅れてFLRを確認しても、その時点ではもう手遅れ。「1か月後に人件費や原価率が高かった」と気づいても、使ってしまったコストは返ってきません。
そこで千串屋では、独自の方法で、アルバイトリーダーでも毎日簡単にFLRを記録・算出できるようにしています。 こうしてできるだけ早い段階、できればディリーに把握するからこそ高い時給を払えるのです。
FLRが見えるから「利益が出る人件費」が可能になる
FLRの管理を通じて、スタッフも「自分たちがコストに関わっている」という意識が自然と身につきます。結果、仕込みのムダ・発注の見直し・売上構成の改善など、店舗単位での“利益体質”が育つのです。
つまり、高い時給を払っても「粗利とFLRのバランスを店舗全体で調整できていれば」、利益はちゃんと出るということです。
戦力を最大化するための時給設定
時給1,100円のスタッフがのんびり動いているより、時給1,300円でも手際よく売上に貢献してくれる人の方が、結果的に人件費率は低くなります。
重要なのは「人件費=コスト」ではなく、「人件費=投資と回収の関係」として見る視点です。厳しいようですが、戦力になっていないスタッフを惰性で使い続けるのは、コスト以前の問題です。
- 著しく動きが遅い
- トラブルを起こす
- 士気を下げる
こうしたスタッフが1人でもいると、他のメンバー全体のパフォーマンスに悪影響を与えます。「評価・配置・教育」の仕組みがないと、人件費の投資効率は悪くなる一方です。
もちろん、「戦力になっていない人は切ってしまえ」という短絡的な考えはNGです。仲間を簡単にクビにするよう店舗では、逆に全体の士気が下がることも考えられるからです。
そうならないために、最初から仲間として迎えられる人をしっかり見極めて採用し、即戦力化し、育てるつづけることが大切です。
「人手不足」をチャンスに変える
世間では、「人手不足で飲食は厳しい」と言われています。飲食店では顕著です。しかし、これは逆に「人が集まる店=勝ち組」になれるチャンスでもあります。
時給を上げてでも優秀な人材を確保し、定着してもらえれば、人件費以上の価値を生み出してくれます。特に焼鳥業態は、業務が比較的シンプルで、戦力化までの時間が短いため、この戦略が非常に有効です。
「コストを下げる」のではなく、「良い人にしっかり払って長く働いてもらい、利益を生み出す」。
この考え方が、これからの飲食店経営に必要な人件費戦略です。
時給上昇時代でもやっていけるお店は、「人件費=コントロール不能な支出」ではなく、「人件費=戦略資源」と捉えています。