物件は売上げを左右する大きな要素となります。資金的に余裕があるのなら一等立地への出店も選択肢となりますが、多くの場合、そうはいきません。
飲食店の物件探しは、今も昔も「立地・家賃・造作譲渡」が基本ですが、ここ数年の業界環境の変化により、追加でチェックすべき重要なポイントが増えています。特にデリバリーやキャッシュレス決済の普及、光熱費の高騰、人材不足などは経営に直結します。つまり、それだけ精度の高い物件選びが難しくなっているということです。
この記事では、どのような条件で物件を探せばよいのかを考えます。
理想通りの物件はない。大切なのは「適切な」妥協をすること
初めての開店の場合、「立地はどんな感じで、店の雰囲気はどうで・・・」とイメージが膨らみます。しかし、準備できる資金には限りがあり、いくつかの点を妥協せざるを得ません。物件探しをする中で、絶対にやってはいけないのは、不動産業者の言いなりになって、妥協のカタマリのような物件と契約してしまうことです。
そうならないためには、「どういった立地のどんな店」という最初のイメージの段階で夢を見すぎないこと。その上で物件探しをする際には求める条件に優先順位をつけ、条件に近いものを探すことが重要です。多くの場合、まったく理想通りの条件の物件を見つけることは稀で、「理想通り」という部分もあれば、「ここはイマイチだ」という部分もあることがほとんどです。その辺りの線引きは非常に難しいものとなります。
特に、飲食店を経験したことがない、または経験が浅い人が選ぶと、最初に選ぶべき物件の基準もあやふやになりがちな上に、妥協点してはいけないところで妥協してしまいます。そのため、開店1年もたたないうちに閉店することとなり、後悔するのです。こうならないために、冷静に判断することが大切となります。
探すのは投資が安価ですむ”居抜き物件”
まず、限られた資金の中で選ぶべきは「居抜き物件」となります。
居抜き物件とは、それまでも飲食店をやっていて、内部の設備や什器備品などがそのままの状態で賃貸される店舗のこと。内装や設計設備など、元あった設備をある程度使えるため、初期投資を低く抑えて開店することが可能になります。
居抜き物件を借りたことがない人は、内装を見て、「雰囲気が違う」と感じがちですが、それはいくらでも変更できる部分。見るべきところは違います。
特に重要なのは配水設備と空調。これをそのまま使えるだけで、数百万円単位のコストをカットできます。居抜き物件は、そういった基礎的な部分をそのまま使用できるほか、冷蔵冷凍庫などの什器類や、客席もそのまま使用できることもあり、開店資金が安く抑えられるのです。
弊社プロデュースの開店でも、約半分は居抜き物件を利用しています。また、千串屋の1号店も格安の居抜き物件を選択しています。街中にある飲食店でも同じように居抜き物件であることが多く、実際、物件としてもたくさんあるので、第一の選択肢になるでしょう。
店舗造作の譲渡相場はないので注意が必要
店舗の内装や厨房機器は「造作譲渡」と言い、店舗の造りとして物件の契約費とは別に購入することになります。これは、前オーナーが決定権を持っていることが多く、相場はあってないようなもの。しかも、そのまま使用するわけにはいかず、多くの場合は何らかの改装工事を行うことになります。ですので、造作譲渡を受ける際は、正しい交渉を行ってください。
また、「盛業中」などと書かれ、まだ営業している状態で物件を見に行くこともあります。その際には、リース品があることも計算に入れる必要があります。冷蔵庫やショーケースなどリース品は基本的に、そのまま引き継ぐことはできません。ないものとして試算します。
さらに、改装工事をすることも多くなりますが、その時になって新しい備品が入れられないとか、譲渡された造作が邪魔になり、思い通りの動線を確保できないなどと予想外の弊害となることもあります。その点も注意したいところです。
一度、閉店している店であることも重視すべき
居抜き物件は、1度(もしくは何回も)閉店に追い込まれた物件です。メインターゲットとなる近隣のお客様は、そのことを知っています。そのため大きなイメージ変更がなければ、「店名を替えただけの店」として見向きもされないでしょう。これでは、新しい顧客開拓もできません。この点も注意したい点です。
居抜き物件を繁盛店にするポイント
居抜き物件のチェック項目は以下です。判断が難しいところも多いので、専門家の意見を仰ぐのが得策です。
- そのままでは絶対にだめ!
- 業種・業態を変える!
- イメージを変える!
- 客層を変える!
物件はでてきても、すぐには本契約をしない
さて、物件が出てきたら、たとえ理想に近く、すぐに契約したいと思っても、一度持ち帰って冷静に判断する必要があります。できれば、第三者の目線であらゆる角度から再度チェックをして、営業するのに適しているかを判断する必要があります。
不動産屋は、「すぐに契約しないと物件が流れてしまう」「他にも狙っている人がいる」とアピールすることもありますが、事業用の物件のほとんどは、それほど早く決まりません。逆に、何ヶ月も空き物件であることもあります。
また、「本当に、この物件しかない」と思うのであれば手付けを払い、キープをした状態で調査をする手もあります。手付金は物件を契約しない場合、捨ててしまう費用ですが、それでも、「オープンしてから条件に合わなかった」と店を閉店することに比較すればメリットが多いはず。店舗物件はそれほど慎重に選ばなければならないということです。
ではここから、様々な角度からのチェック項目を具体的にお伝えしていきます。
物件を探す際のチェック項目
物件内見時のチェック項目
- 立地・交通アクセス・駐車場・視認性 ⇒ 視認性重要!!
- 面積・席数 ⇒ 物件情報に惑わされず、自分の目を信じる
- 賃料・共益費・その他の不動産費
- 設備・電灯、動力容量・ガス設備 ⇒ 電気容量は最低60Aが必要。既存の厨房設備に加え、冷蔵庫・電子機器を増設しても耐えられるかもポイント
- 償却・解約 ⇒ 要確認項目。償却約10%、解約予告6ヶ月以内が目安
- 仲介手数料 ⇒ 1ヶ月が目安
物件内見後、契約候補として検討する際のチェック項目
- 商圏調査 ⇒ 外注で調査するのがベスト
- 商圏人口と年齢層
- 駅乗降者数
- 競合店調査 ⇒ 3店以上は調査を実施
- 客数
- 客単価 ・・・ 客単価2,000円以下の店舗近くは要注意
- 原価率 ・・・ 家賃等が発生せず原価率の高いお店は要注意
弊社が得意とすることの一つに物件調査があります。2年以内にクローズする飲食店が多い中、弊社がプロデュースした店舗ではクローズが非常に少ないのは、まずこの立地選びが優れていることがあります。
例えば、店舗物件を探すには、弊社が契約している不動産物件の情報サイトを利用します。さらに、その通りの条件かを足を使って調べることもあります。この中には、店舗面積や立地条件だけでなく、仲介手数料や水光熱の契約条件、解約の条件など、幅広い項目が含まれます。
さらに、物件だけでなく近隣の競合調査や商圏調査などをオーナー様と共同で行い、立地の優位性も確認します。
近隣の競合調査をして、客単価が2000円以下のお店ばかりが存在するとき。または、そういった店だけが繁盛している立地は要注意です。客単価が安いということは、儲けが出ません。つまり、店舗経営という意味では安定しないからです。客単価の安い店が繁盛していても良いのですが、それ以外の高価格帯の飲食店も同じように繁盛しているような立地を探します。
ではここに、弊社が使用しているデータシートを参考に載せておきます。企業秘密でもあるので、一部が伏せ字になっていることはご了承ください。
立地評価基準
候補物件評価
いかに物件調査の項目が多いかがお分かりいただけたかと思います。これだけのことを調べるので、千串屋は長い経営が可能になるのです。これから新しいビジネスを始めようというのですから、項目は多過ぎることはありません。ぜひ漏れのないチェックで、確実に儲けられる店舗物件を探してください。
新しくチェックするべき項目
他にも、数年前であれば重要視されなかった項目も、最近では重要視されていることがいくつかあります。例を挙げます。
ネット環境
ネット環境の整備は特に重要です。SNSで広めてもらうことも重要ですし、POSレジやモバイルオーダーに加え、キャッシュレス決済にも対応できるWi-Fi環境は必須です。
ネット環境は整備されていて当たり前と考える経営者もいるようですが、地下などでは安定しない所もあります。逆にアンテナが乱立しすぎて不安定になる事例もありますし、意外なものでは、すぐ隣のコンビニの微弱なWi-Fiとつながってしまってトラブルが頻発する例もあります。
スマホの電波が微弱な場合、キャリアに連絡すれば対応をしてくれる可能性もありますが、店外にアンテナ、店内に受信機が必要となり、ビルの大家が許可しない場合もあります。実際に足を運びどのような状況にあるのか、アンテナの増設などが可能なのかは事前にチェックすべきでしょう。
法規制・近隣環境
立地によっては深夜営業やアルコール提供に時間的な制限を設けている地域もあります。ビルがセキュリティ目的でスタッフがいてよい時間を制限していることもあります。これは事前に調べるべき項目でしょう。
また特異な例では、深夜になると水商売の男女であふれかえってしまい、店舗コンセプトとまったく違った雰囲気に悩まされる例もあります。水商売は営業時間が厳しくなっているので、その影響だと思われます。他にも、日中は見かけなかった外国人が、深夜になるとあふれてくるといった例も増えています。
物件を見に行く時間は営業時間の中でもピークにあたる時間が多いと思いますが、ぜひ深夜時間帯などもチェックするようにしてください。
他にも、近隣トラブルの可能性もあります。特に住宅街では煙・臭い・音に敏感なケースが多いため、換気・防音対策が必須です。そのためにコストが大幅にアップすることもあるので注意が必要です。
ランニングコストの見積もり
近年は電気・ガス料金が高騰しています。地域による差もあり、契約容量や燃料種別による違いもあります。事前のシミュレーションが重要となります。
また、ごみの処理についても考えたいところです。飲食店からでるゴミは「産業廃棄物」として専用業者に回収してもらうのが基本です。しかし、業者の手配が難しい地域や高額になってしまう地域もありますし、ゴミを貯めておく場所がない物件もあります。事前にチェックするべき項目でしょう。
なお、自治体によってはわざわざ産廃業者に依頼しなくても、有料券(シールなど)をゴミ袋につけることで一般のゴミ回収と一緒に処理してくれるところがあります。役所などに問い合わせてみるのも有効です。
人材確保の観点からもチェック
飲食店は人材確保が難しくなっています。そのため、スタッフの通勤利便性からのチェックが必要な場合もあります。たとえば、駅からの距離、終電後の帰宅手段などが考えられます。採用難の時代ですから、「働きやすい立地」が店舗存続に直結するのです。また、周辺環境の安全性も忘れず行ってください。
まとめ
飲食店経営の成功は「物件選び」で半分決まる、と言われるほど重要です。近年は、デジタル対応・光熱費・人材採用・規制環境といった新しい要素が加わり、チェック項目はますます増えています。
「居抜きだから環境は整っているはず」「立地がいいから即契約」と短絡的に判断せず、さまざまなチェックポイントも踏まえて物件を比較検討することが、長期的に利益を出す店舗づくりにつながります。