飲食店において、現金はさまざまなシーンで使用します。売上げはもちろんのこと、備品を購入する小口現金なども店長が管理するべきものでしょう。
ここでは、飲食店で扱うお金について考えて行きます。

 

飲食店に現金はつきもの

クレジットカードや交通系電子マネーが使われる機会が多くなっています。最近はキャシュレスが普及し、現金よりも利用されている店も増えています。しかし、現金決済はまだ残っていますし、売り上げ以外の場面で現金を扱うところも多くあります。そのため、店長が金銭管理を厳格に行い、正確さをもとめるのは非常に重要なことです。

たとえ10円であっても頻繁に違算が出る店舗は、ほとんどの場合、「店長がリーダーシップを発揮してない」「スタッフの仕事に対する意識低下」などのマイナスの要素が現れたものです。また、「店長が金銭管理を厳格に行う姿勢を見せていない」というような状況では、店舗のモラルは乱れるなど、他にもマイナスな点が多く見られます。

現金は、お客様からいただくサービスの対価であり、それがなくては自分の給料がでないことはおろか、店舗の存続も危ぶまれます。つまり、現金が重要だと言うことを教えることは、自分たちやサービスを提供することの意味を教えることとイコールなのです。お金を扱うことへの緊張感をもたせるようにしてください。

 

小口現金とは、店舗用の財布のようなもの

小口現金とは、店舗用の財布のようなもの

小口現金とは、お店の「財布」となるものです。店長や従業員が自分の財布からお金を出金して買い物をしている姿は、正しい姿ではありません。また、「買い物に行くから」とレジからお金も持ち出すのもNGです。お店用の財布を作り、買い物はその財布から入出金させます。このようなお金を「小口現金」といいます。

そのほかにも、文房具や小切手の購入など、細かな費用の支払いを小口現金から行います。

小口現金は、現金残高とレシートの合計が、「小口入金金額」に合致するように管理します。

 

定額資金前渡制度(インプレストシステム)

定額資金前渡制度とは、あまり耳にしない制度かもしれませんが、実は多くの小口現金がこの仕組みを使って支払われています。これは、一定期間分のまとまったお金を担当者に渡しておき、担当者はそれを店舗の財布に入れておきます。そして、そこからさまざまな支払いを済ませ、明細を「小口現金出納帳(または現金出納帳)」に記載するシステムです。

通常は、小口現金出納帳に記載する担当を店長に負わせますが、必ずしもそうでなくてはならない訳ではなく、経理担当やオーナー自らが行ってもかまいません。ただし、飲食店では、仕入れに小口現金を使用することも多く、ここできちんと管理しなければ、なぁなぁになってしまいます。正しい管理を行っている姿を見せるようにしてください。

定額資金前渡制度(インプレストシステム)

売上管理とは

飲食店は日銭が入る仕事です。そのため、「資金繰りがしやすい」等という声も聞こえてきますが、そうでしょうか?

現金、つまり日銭は毎日入りますが、キャッシュレス決済は締め日にならないと入金されません。月末に使われたクレジットカード分は1週間程度で入金されますが、月初分は一ヶ月以上先にならないと入金されないこともザラにあります。

また、基本的に日々の売り上げは大きくない一方、税金や各種ローンなどの支払いは大きな金額を支払う必要があります。

特に開業初期では、キャッシュフローを掴みにくく、最初は口座にお金がある状態から始まりますが、会計帳簿上には利益が出ているのに手元にお金が残りにくい状態が発生します。

「黒字倒産」などという言葉を聞いたことがあるかと思いますが、経営経験のない人が正確なキャッシュフローを掴まないと、黒字でも苦しい状態へと陥るのです。そうならないために、しっかりとした管理と現状把握が必要となるのです。

キャッシュフローの基礎知識

キャッシュフローの基礎知識

キャッシュフローとは、「資金繰り=お金の流れ」のことをさします。飲食店ではお金の流れが見えづらく、オーナー自身がお金の流れが見えていないことがあります。

例えば、お酒や食材の支払いを日々行わず、1週間や1ヶ月分をまとめて支払っていることが多くあります。この買掛金システムを「支払いサイト」と呼び、飲食店で一般的に行われていることです。

その一方で、売上げは毎日発生するものの、前述のように手元に入金される日はバラバラです。ここに飲食店のキャッシュフローの難しさがあります。

例えば、現金決済が多い店舗の場合、仕入れの支払いサイトが1ヶ月だとすれば、12月の忘年会シーズンに売上げが伸びると、急に金回りがよくなったような錯覚をしてしまうケースがあります。しかし、その支払いをするのは1ヶ月後。1月はお正月休業によって営業日数も少ない中、12月の支払いをしなければならず、非常に苦しくなってしまいます。

さらに、店舗には、家賃の引き落としや水道光熱費の支払いがあるほか、消費税の積み立てや事業税の支払いが発生します。これらは決して安い金額ではありません。それらの金額は、日々の売上げから捻出しなければならないのです。これらをすべて把握して、はじめて経営がうまくいくのです。

口座は2つ作り、ひとつは積み立て管理口座とする

これに対応するために、口座を2つ用意し、毎月定時定額で積み立てを行うことをおすすめします。まずは一旦、売上げを口座に入れます。キャッシュレス決済の振込先もこの口座に統一します。これにより、売上金はタイミングがずれることがあっても、この口座で確定されます。
次に、①広告費用、②消費税分、③お店の損益に直接関係しない費用を、定期的に別口座の方へ移します。

これは、月に一度くらいが適当ですが、キャッシュレス決済が多い場合は、2回に分けてもよいでしょう。売上げ入金の口座では、口座内でPLが描けるように調整。月末利益は、引き落としのための不足が出ないように口座内に残し、残りを別口座に資金移動するのです。これによって、キャッシュフローを掴みやすくすることが大切です。

日々の「レジ締め」と不正防止:スタッフと店を守るための環境づくり

ここまで、経営的な視点からのお金の流れや管理方法についてお伝えしてきました。最後に、これらを現場で実行するための「日々のルーティン」と、店長として最も頭を悩ませる「不正やミスの防止」について触れておきたいと思います。

レジ締めは「一日の通信簿」

多くの飲食店ではPOSレジが導入されていますが、最終的に現金を数えるのは人の手です。ここで重要なのは、「違算(過不足)」が出たときの対応です。

「数百円合わないけれど、疲れているから明日考えよう」 「足りない分は、自分の財布から出して合わせておこう(自腹補填)」

これらは絶対にやってはいけないことです。特に「自腹で合わせる」行為は、美談のように語られることもありますが、経営管理上は「事実の隠蔽」に他なりません。ミスなのか、システムのエラーなのか、あるいは盗難なのか。

原因を特定しないまま帳尻だけ合わせることは、将来の大きな事故の芽を育てているのと同じです。 たとえ1円のズレであっても、その原因を突き止める姿勢を店長が見せることが、店舗全体の規律を作ります。

不正の起きにくい環境を作る義務

飲食店経営において、避けて通れないのがスタッフによる金銭トラブル(内引き・横領)のリスクです。これを「スタッフを信じているから大丈夫」という精神論だけで片付けるのは危険です。 犯罪心理学の観点では、人は「動機(お金が欲しい)」「機会(誰にも見られずに盗める状況)」「正当化(こんなに働いているのに給料が安いからこれくらい良いだろう)」の3つが揃った時に不正を働くと言われています。

店長や経営者がやるべきことは、スタッフを疑うことではなく、この中の「機会」を物理的に排除してあげることです。

  • 店長以外がレジ締めをする場合、必ず二人体制で行う(ダブルチェック)
  • 小口現金の領収書チェックは、店長が定期的に行う
  • 金庫の暗証番号を定期的に変更する

こうしたルールを徹底することは、店のお金を守ると同時に、「スタッフを魔が差す瞬間から守る」ことでもあります。厳格な管理は、真面目に働くスタッフが疑われないための防波堤なのです。

現金への態度は、料理と接客に表れる

冒頭でも触れましたが、お金の管理が杜撰な店は、衛生管理も接客態度も荒れていることがほとんどです。「10円くらい誰にもバレないだろう」という甘えは、「掃除はこれくらいでいいだろう」「賞味期限が少し切れているけれど大丈夫だろう」という甘えと根っこは同じだからです。

売上管理や小口現金の管理を徹底することは、面倒で地味な作業です。しかし、その「1円を大切にする姿勢」こそが、お客様からいただく代金への敬意であり、ひいては提供する料理やサービスへの責任感へと繋がっていきます。

ドンブリ勘定からの脱却は、ただの経理処理の改善ではありません。それは「強い店舗」「強いチーム」を作るための、最初の一歩なのです。まずは今日のレジ締めから、意識を変えてみてはいかがでしょうか。